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東京地方裁判所 平成7年(ワ)24244号 判決

原告

上岡敏男

(他三名)

右原告四名訴訟代理人弁護士

宮川泰彦

(他四名)

被告

大井交通株式会社

右代表者代表取締役

金本好正

主文

一  被告は、原告上岡敏男に対し、金五九万七八一六円並びに内金二五万六二〇三円に対する平成七年九月二九日から、及び内金三四万一六一三円に対する平成七年一〇月二九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告務台正美に対し、金三六万三三九一円並びに内金二万七九五三円に対する平成七年九月二九日から、及び内金三三万五四三八円に対する平成七年一〇月二九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告仲村敏和に対し、金四二万一五四六円並びに内金六万〇二二〇円に対する平成七年九月二九日から、及び内金三六万一三二六円に対する平成七年一〇月二九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告山脇久和に対し、金三〇万五七八九円並びに内金二八万二二六七円に対する平成七年三月二九日から及び内金二万三五二二円に対する平成七年四月二九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

五  原告山脇久和のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は、第一項から第四項までに限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項から第三項までと同旨

二  被告は、原告山脇久和に対し、金三二万九三一一円並びに内金二万三五二二円に対する平成七年三月一日から、内金二八万二二六七円に対する平成七年三月二九日から及び内金二万三五二二円に対する平成七年四月二九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等(争いのない事実のほか、証拠により認定した事実を含む。認定の根拠とした証拠は各項の末尾に挙示する)

1  被告

被告は、道路運送法三条一号ハ所定の一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー・ハイヤー)を営む株式会社である。

2  被告と原告らとの雇用契約

(一)(1) 原告上岡敏男(以下「原告上岡」という)は、平成七年二月に被告に雇用され、以来タクシー乗務員(運転手、以下単に「タクシー乗務員」という)として勤務している。

(書証略、原告上岡敏男本人)

(2) 原告務台正美(以下「原告務台」という)は、昭和六〇年九月に被告に雇用され、以来タクシー乗務員として勤務している。

(書証略、原告務台正美本人)

(3) 原告仲村敏和(以下「原告仲村」という)は、平成七年七月以前から被告に雇用され、タクシー乗務員として勤務してきている。

(4) 原告山脇久和(以下「原告山脇」という)は、昭和六三年三月に被告に雇用され、以来タクシー乗務員として勤務している。

(書証略、原告山脇久和本人)

(二)(1) 被告がタクシー乗務員に支給する賃金には月例賃金と引当金とがある。引当金は、被告が毎月タクシー乗務員に交付すべき賃金の中から一定額を積み立て、四箇月ごとに年三回(三月末日、七月末日及び一一月末日)支給する。

(2) 月例賃金は、前月の二一日から当月の二〇日までの間の営業収入額(タクシー乗務による水揚げ額)に応じて計算され、毎月二七日又は二八日に支給される。

3  大井交通労働組合における原告らの地位

原告らは、被告の従業員で組織し自交総連東京地連に加盟している大井交通労働組合の組合員である。平成七年七月一九日に開催された右労働組合の臨時大会で、原告上岡は執行委員長に、原告務台は書記長に、原告仲村は会計担当の執行委員にそれぞれ選出された。原告山脇は、平成四年、右労働組合の書記長に選任され、平成七年七月までその任にあったものである。

(書証略、原告上岡敏男、同務台正美、同仲村敏和及び同山脇久和各本人)

4  被告の拒絶による原告らのタクシー乗務の履行不能

(一)(1) 原告上岡は、乗務日(出番日)である平成七年八月三〇日、同年九月二日、同年九月四日、同年九月八日、同年九月一〇日、同年九月一三日、同年九月一五日、同年九月一八日、同年九月二〇日、同年九月二三日、同年九月二六日、同年九月二八日、同年一〇月一日、同年一〇月三日、同年一〇月七日、同年一〇月九日、同年一〇月一二日、同年一〇月一四日、同年一〇月一七日及び同年一〇月一九日に被告に出社し、タクシーに乗務することを申し入れた。

(2) 被告の社長秘書(平成七年八月七日に取締役に就任し、同月九日にその旨の登記)であり、当時、代表取締役社長の指示の下で運行管理の実務と事務所の統括を担当していた李達完は、原告上岡の右各乗務申入れを拒否した。そのため、原告上岡は、タクシー乗務を履行することができなかった。

(二)(1) 原告務台は、乗務日(出番日)である平成七年九月一八日、同年九月二一日、同年九月二三日、同年九月二七日、同年九月二九日、同年一〇月二日、同年一〇月四日、同年一〇月七日、同年一〇月九日、同年一〇月一三日、同年一〇月一五日、同年一〇月一八日及び同年一〇月二〇日に被告に出社し、タクシーに乗務することを申し入れた。

(2) 李達完は、原告務台の右各乗務申入れを拒否した。そのため、原告務台は、タクシー乗務を履行することができなかった。

(三)(1) 原告仲村は、乗務日(出番日)である平成七年九月一六日、同年九月二〇日、同年九月二五日、同年九月二七日、同年九月三〇日、同年一〇月二日、同年一〇月六日、同年一〇月八日、同年一〇月一一日、同年一〇月一三日、同年一〇月一六日及び同年一〇月一八日に被告に出社し、タクシーに乗務することを申し入れた。

(2) 李達完は、原告仲村の右各乗務申入れを拒否した。そのため、原告仲村は、タクシー乗務を履行することができなかった。

(四)(1) 原告山脇は、乗務日(出番日)である平成七年二月一九日、同年二月二三日、同年二月二五日、同年二月二七日、同年三月二日、同年三月四日、同年三月六日、同年三月一〇日、同年三月一二日、同年三月一四日、同年三月一七日、同年三月一九日及び同年三月二一日に被告に出社し、タクシーに乗務することを申し入れた。

(2) 李達完は、原告山脇の右各乗務申入れを拒否した。そのため、原告山脇は、タクシー乗務を履行することができなかった。

5  原告らの月例賃金の平均額

(一) 原告上岡は、前記のタクシー乗務の履行不能以前三箇月間に、平均三四万一六一三円の月例賃金の支払を受けていたので、原告上岡のタクシー乗務一日(一出番)当たりの賃金額は二万八四六七円である。

(二) 原告務台は、前記のタクシー乗務の履行不能以前三箇月間に、平均三三万五四三八円の月例賃金の支払を受けていたので、原告務台のタクシー乗務一日(一出番)当たりの賃金額は二万七九五三円である。

(三) 原告仲村は、前記のタクシー乗務の履行不能以前三箇月間に、平均三六万一三二六円の月例賃金の支払を受けていたので、原告仲村のタクシー乗務一日(一出番)当たりの賃金額は三万〇一一〇円である。

(四) 原告山脇は、前記のタクシー乗務の履行不能以前三箇月間に、平均二八万二二六七円の月例賃金の支払を受けていたので、原告山脇のタクシー乗務一日(一出番)当たりの賃金額は二万三五二二円である。

6  就業規則の定め(原則として原文のままとした)

被告の就業規則(書証略)には次の規定がある。

(就業禁止)

八条

会社は、従業員が次の各号の一に該当すると認めたときは、事業場への入場、または就業を禁止し、あるいは退場させる。

一  酒気を帯びているとき。

二  記録紙を挿入しなかったとき。

三  遅刻のため就業を認めなかったとき。

四  風紀・秩序をみだし、またはみだそうとしたとき。

五  火気、凶器、爆発物、その他業務に必要のない危険物を所持しているとき。

六  他人の業務を妨害し、またはそのおそれがあるとき。

七  衛生管理上就業を禁止されたとき、または衛生上有害と認めたとき。

八  出勤停止処分にされたとき、懲戒処分前の就業停止を命じられたとき。

九  その他特に会社が入場、または事業場内の滞留を不適当と認めたとき。

(解雇)

三二条一項

会社は、従業員がつぎの各号の一に該当するときは解雇する。

(以下略)

三二条二項

本条による解雇に際し、必要あるときは解雇期日までの間、他の勤務につかせ、または就業を停止させることがある。就業を停止したときの賃金は原則として支給しない。

(懲戒の種類、方法、および決定)

九四条

懲戒は、譴責、減給、降格、乗務停止、出勤停止、諭旨解雇、および懲戒解雇の七種類とし、その方法はそれぞれの処分書を交付して、つぎのとうり措置する。ただし、情状酌量の有無、または反省の事情によって処分を軽減あるいは加重することがある。

四 乗務停止

一定期間乗務を停止し、再教育を受けさせ、または他の業務に従事させる。

五 出勤停止

二〇労働日以内の期間を定めて出勤停止を命ずる。出勤停止期間中の賃金、賞与は一切支給しない。

(懲戒処分前の就業制限)

九七条

違反行為者に対して懲戒処分が決定するまでの間、会社は当該従業員に対し、他の勤務につかせ、または就業を停止するなど、就業を制限することがある。就業を停止した場合は、その間賃金を支給しない。

(譴責、減給、降格、乗務停止、出勤停止)

一〇二条

従業員が次の各号の一に該当するときは、譴責、減給、降格、乗務停止、または出勤停止に処分する。

四 業務上の指示、命令に従わないとき。

二〇 前各号に準ずる行為があったとき。

(諭旨解雇、懲戒解雇)

一〇三条

従業員がつぎの各号の一に該当するときは、諭旨解雇、または懲戒解雇に処する。

三二 業務上の指示、命令に不当に反抗して事業場の秩序を乱したとき。

二 争点

1 原告上岡関係

(一)(1) 李達完は、原告上岡に対し、平成七年八月二九日、同年八月二八日の常会に参加しなかったことについて、不参加の理由と事前に連絡しなかった理由を尋ね、事前に連絡できなかった理由を書面(顛末書)で提出するよう指示したか(李達完は、不参加の理由と事前に連絡しなかった理由を尋ねたりせず、始末書を出すよう求めたものであるか)。

(2) その際、原告上岡は、李達完に対し、「会社は自分を無視しているから、自分も無視する」等と述べて反抗的な言動に及んだか否か。

(二)(1) 原告上岡の(一)(2)の言動は就業規則八条四号に当たるか。

(2) 当たるとして、被告が原告上岡を平成七年八月三〇日から同年九月一九日まで就業(乗務)停止とし、一定期間が経過した一〇月度をもって乗務停止を解除することとしたことは適法か。

(3) 被告の就業規則八条に基づいて就業を禁止しても、その間の賃金を全額不支給とすることは、民法五三六条二項、労働基準法二六条に照らし、許されないか。

2 原告務台関係

(一) 原告務台は、平成七年九月一六日午前七時三〇分過ぎころ、被告の運行窓口で騒ぎ立て、運行窓口の業務を妨害し、李達完に対し、「お前は人間ではない」、「人間の心を持っていない」等の暴言を吐いたか。

(二) 被告が原告務台に対し、(一)の言動を理由に就業規則九七条を適用して就業停止を命じたことは適法か。

(三) 被告の就業規則九七条に基づいて就業を停止しても、その間の賃金を全額不支給とすることは、民法五三六条二項、労働基準法二六条に照らし、許されないか。

(四) 被告の就業規則九七条は懲戒処分を行うのに必要な厳格な手続を潜脱するもので無効であるか。

3 原告仲村関係

(一) 原告仲村は、平成七年九月一二日に李達完から組合の高速券購入取扱いの経緯等の説明文書の作成、提出の依頼を受け、同月一五日、これを承諾したか否か。原告仲村は、李達完が、同月一六日、「昨日までの約束はどうなったのか」と履行を求めたのに、「そんなものは出せない」とことさら無視する態度を取ったか否か。

(二) 被告が原告仲村に対し、(一)の言動を理由に就業規則八条四号を適用して就業停止を命じたことは適法か。

4 原告山脇関係

(一) 被告が平成七年二月一九日に原告山脇の乗務が可能であることの診断書が提出されていないことを理由に乗務をさせなかったことは適法な措置か。

(二)(1) 原告山脇は、同年二月二〇日被告の事務所二階の運行窓口で李達完に対し、「表へ出ろ」、「出てこい」等、大声で申し述べて、業務を妨害したか。

(2) 被告が原告山脇に対し、(1)の言動を理由に就業規則九四条を適用して原告山脇の就業(乗務)を平成七年二月二一日から差し止めたことは適法か。

(3) 被告が、原告山脇に対し、その後も反省の態度を示さないことを理由に、平成七年三月一一日、それまでの就業(乗務)差止めの期間も充当し、同年二月二一日から同年三月一二日までの間、二〇日間を乗務停止とする旨を決定したことは適法か。

(三) 原告山脇は、平成七年三月一四日にいったん内勤を承諾したか。同年三月一四日から同年三月二七日までは原告山脇に配車がなかったのはそのためであるか。

第三当事者の主張

一  請求の原因

1  「争いのない事実等」(第二、一)1項、2項、4項及び5項(被告、被告と原告らとの雇用契約、被告の拒絶による原告らのタクシー乗務の履行不能、原告らの月例賃金の平均額)のとおり。

なお、本件請求は民法五三六条二項に基づく賃金請求であるから、労務の遂行を受ける債権者の立場にある被告の責めに帰すべき事由が存することの主張立証責任は原告らにあるが、被告の拒絶による原告らのタクシー乗務の履行不能の事実が存すれば、被告において右拒絶の正当な理由を主張立証しない限り、被告の責めに帰すべき事由が存するものと解することができるから、請求の原因においては被告の拒絶による原告らのタクシー乗務の履行不能の事実を摘示すれば足りると考え、右拒絶の正当な理由を抗弁として整理した。

2  未払賃金額

(一)(1) 原告上岡は、平成七年九月分(平成七年八月二一日から同年九月二〇日までの間)の月例賃金のうち、同年八月三〇日、同年九月二日、同年九月四日、同年九月八日、同年九月一〇日、同年九月一三日、同年九月一五日、同年九月一八日、同年九月二〇日のタクシー乗務九日分の賃金の支給を受けなかった。その額は、二五万六二〇三円である。

(2) 原告上岡は、平成七年一〇月分(平成七年九月二一日から同年一〇月二〇日までの間)の月例賃金全額の支給を受けなかった。その額は、三四万一六一三円である。

(二)(1) 原告務台は、平成七年九月分の月例賃金のうち、同年九月一八日のタクシー乗務一日分の賃金の支給を受けなかった。その額は、二万七九五三円である。

(2) 原告務台は、平成七年一〇月分の月例賃金全額の支給を受けなかった。その額は、三三万五四三八円である。

(三)(1) 原告仲村は、平成七年九月分の月例賃金のうち、同年九月一六日、同年九月二〇日のタクシー乗務二日分の賃金の支給を受けなかった。その額は、六万〇二二〇円である。

(2) 原告仲村は、平成七年一〇月分の月例賃金全額の支給を受けなかった。その額は、三六万一三二六円である。

(四)(1) 原告山脇は、平成七年二月分の月例賃金のうち、同年二月一九日のタクシー乗務一日分の賃金の支給を受けなかった。その額は、二万三五二二円である。

(2) 原告山脇は、平成七年三月分の月例賃金全額の支給を受けなかった。その額は、二八万二二六七円である。

(3) 原告山脇は、平成七年四月分の月例賃金のうち、同年三月二一日のタクシー乗務一日分の賃金の支給を受けなかった。その額は、二万三五二二円である。

3  よって、原告らは、被告に対し、前記各未払賃金額及びこれに対する各弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3は争う。

三  抗弁

1  原告上岡関係

(一) 原告上岡は、平成七年八月二九日、同月二七日及び同月二八日に行われた被告の常会に無断で欠席し、それに関する上司の注意に対して反抗し、不穏当極まる言動に及んで職場の風紀・秩序を乱した(就業規則八条四号)。

(二) 常会は、乗務員全員を対象とする保安・接客教育の重要な場とされ、タクシー会社ではどこでも行われているものである。常会に欠席したからといって、賃金をカットしたり、懲戒処分にすることはないが、特別の理由のない限りは乗務員は必ずこれに参加するのが常識であって、乗務員が正当な理由がないのにことさらこれに参加しないのであれば、乗務員としての適性が問題になるのは当然である。

(三) 原告上岡は、平成七年八月二八日の常会に何の連絡もなく参加せず、同月二九日に李達完から不参加の理由と事前に連絡しなかった理由を尋ねられると、「会社は自分を無視しているから、自分も無視する」等と述べて反抗した。李達完は、原告上岡に対し、その場で、事前に連絡できなかった理由を書面(顛末書)で提出するよう指示したが、原告上岡は、これを拒否した。

(四) そこで、被告は、原告上岡が被告の指示や注意を無視する旨公言する重大発言をして被告の風紀・秩序を乱し、会社従業員としてそのまま就業させることが適当でないと判断される行為があったことにより、就業規則八条四号を適用して原告上岡を平成七年八月三〇日から同年九月一九日まで就業(乗務)停止とし、一定期間が経過した一〇月度をもって乗務停止を解除することとした。

2  原告務台関係

(一) 原告務台は、平成七年九月一六日午前七時三〇分過ぎころ、李達完が原告仲村との間で、高速券の購入取扱いの経緯等の説明文書の件について話をしているところに、勤務時間中であるにもかかわらず、組合執行委員永盛曽平外数名と共に割って入り、約一五分間にわたって、運行窓口で騒ぎ立て、運行窓口の業務を妨害した。李達完が「事実経過を知らずして、一方的に抗議するのはおかしい。就業時間中だから、仕事に就くように」と再三注意したが、原告務台は、これを聞き入れず、李達完に対し、「お前は人間ではない」、「人間の心を持っていない」などと暴言を吐いた。

(二) 被告は、原告務台及びこれに同調した永盛曽平の行為が就業規則一〇二条四号、一〇三条三二号に該当すると判断し、懲戒処分の程度を決定する資料として、右両名に弁明の機会を与え、反省の情があるならその旨表明する機会を与えるため、弁明ないし反省の書面を提出させることとし、その間は、就業規則九七条を適用して就業を停止することにした。

そこで、被告は、右両名に対し、平成七年九月一八日、右書面の提出を命じ、併せて就業(乗務)停止を申し渡した。

(三) 永盛曽平は、その場で「事情も知らずに騒ぎ立てたことは申し訳ありません」と反省の意を示し、翌日始末書を提出すると約束したので、被告は、平成七年九月一八日の乗務を許した。永盛曽平は、同月一九日始末書を提出した。そこで、被告は、懲戒処分を見送ることとした。

(四) 原告務台は、反抗的態度を崩さず、前記書面の提出を拒否したので、平成七年九月一八日から乗務停止となった。被告は、原告務台が前記書面を提出しないので、懲戒処分としての乗務停止に処し、それまでの乗務停止期間をこれに充当する予定であったが、東京地方裁判所に原告務台が仮処分を申し立て、本件訴訟を提起するに至ったので、懲戒処分の発令を当面見送ることとし、現在に至っている。

3  原告仲村関係

(一) 原告仲村は、被告が命じた文書の提出をいったん約束しながら、後にこれを覆して提出を拒否しただけでなく、被告に対し反抗的態度を取ったから、従業員としての適性に問題があり、職場の風紀・秩序を乱したものである(就業規則八条四号)。

(二) 李達完は、被告代表者の指示を受け、平成七年九月一二日、原告仲村に対し、組合の高速券購入取扱いの経緯等の説明文書の作成、提出を依頼し、同月一五日、原告仲村はこれを承諾した。そこで、李達完は、同月一五日、原告仲村に対し、翌日提出するよう指示した。しかるに、原告仲村は、同月一六日、李達完に対して右文書を提出せず、その作成、提出を拒否するに至った。李達完が「昨日までの約束はどうなったのか」といくら言っても、原告仲村は、「そんなものは出せない」とことさら無視する態度であった。

(三) 被告は、原告仲村がいったん前記文書の提出を約束しながら、後にこれを覆して提出を拒否しただけでなく、ことさら上司の指示を無視する態度を取ったことは、就業規則八条四号に該当し、従業員としての適性を疑わせる行為であると判断し、前記文書が提出され勤務態度が改められるまで就業(乗務)停止とした。

4  原告山脇関係

(一) 原告山脇は、平成七年二月一九日療養治療による長期の欠勤後出社し乗務を申し入れたが、被告の高橋運行課長は、乗務が可能であることを証する診断書を提出するよう指示し、原告山脇を帰宅させた。原告山脇が被告に乗務が可能であることを証する診断書を提出したのは同年二月二一日である。原告山脇は、同年二月二〇日午後一時過ぎ、被告の事務所二階の運行窓口に内宮ら乗務員二名とともに押し掛け、大声で「なぜ内宮を下車勤にしたのか説明しろ。下車勤の文書を出せ」等と騒ぎ立て、李達完が「内宮の件は本人に説明し、下車勤を指示してある。組合で取り上げるというのであれば、文書で申し入れなさい。窓口は今仕事中で業務に支障があるから帰りなさい」と諭したが、原告山脇らは、聞き入れず、李達完に対し、「表へ出ろ」、「出てこい」と騒ぎ、約一五分以上運行窓口で勤務中の事務職員の業務を妨害し、上司に対する暴言を吐いて被告の秩序を乱した。

(二) 被告は、原告山脇が組合の書記長(当時)であることも考慮し、就業規則九四条により原告山脇の就業(乗務)を平成七年二一日から差し止めた。

(三) 被告は、原告山脇がその後も反省の態度を示さないことから、平成七年三月一一日、原告山脇に対し、それまでの就業(乗務)差止めの期間も充当し、同年二月二一日から同年三月一二日までの間、二〇日間を乗務停止とする旨を決定し、文書で通告した。

(四) 原告山脇は、平成七年三月一四日に出社し、李達完から「内勤をしてくれないか」と持ちかけられると、「何をすればいいのか」、「内勤というのは仕事は何時から何時までか」とこれに応じる態度を示した。そこで、李達完は、その場で内勤の仕事の内容と始業及び終業の時間を説明し、原告山脇はその日の午前中は内勤の仕事に就いた。ところが、原告山脇は、同日午後になって、「自分は内勤の仕事に応じたことはない」等と述べて態度を翻し、またもや反抗的な態度に出てきた。その後、李達完と原告山脇との間で、内勤への配置換えを承諾したか否かで何回か応酬があり、同年三月二一日には原告山脇から「内勤の仕事内容や勤務時間を文書にして渡せ」という要求があった。

被告は、既に説明済みのことではあったが、いつまでも押問答をしていても仕方がないので、同年三月二七日から原告山脇に配車し、乗務させた。

同年三月一四日から同年三月二七日までは原告山脇に配車がなかったが、これは原告山脇に責任がある。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実のうち、原告上岡が平成七年八月二七日及び同月二八日に行われた被告の常会に事前の連絡をせずに欠席したことは認め、その余の事実は否認する。

(二)の事実のうち、特別の理由のない限りは乗務員は必ず常会に参加するのが常識であり、乗務員が正当な理由がないのにことさらこれに参加しないのであれば、乗務員としての適性が問題になることは否認する。

(三)の事実のうち、原告上岡が平成七年八月二八日の常会に何の連絡もなく参加しなかったことは認め、その余の事実は否認する。李達完は、原告上岡に対し、不参加の理由と事前に連絡しなかった理由を尋ねておらず、「常会に出ないから、始末書を出せ」と言い放っただけである。原告上岡が「会社は自分を無視しているから、自分も無視する」等と述べて反抗したことはない。仮に原告上岡がそのような言動に出れば、被告は直ちに懲戒処分を行ったはずである。原告上岡は、常会の内容については阿部運行課長から説明を受けて了知している旨を説明したが、李達完はなおも執拗に始末書の提出を求め続け、原告上岡がこれに従わなかったので、平成七年八月三〇日、原告上岡に対し、乗務に必要な運転日報・乗務員章等を交付せず、乗務を拒否するに至った。

(四)は争う。就業規則八条四号は、労働者が就業しても不完全な就業しか望めず、事業所の秩序や他の労働者の就業に悪影響を及ぼすような状況にある場合に、労働者に対する事業所への入場拒否、就業拒否を定めたものであり、一時的、緊急避難的な措置であるにとどまり、同号を根拠に、労働者に対し相当長期間にわたって事業所への入場拒否、就業拒否を行うことは許されない。また、被告の就業規則八条に基づいて就業を禁止しても、その間の賃金を全額不支給とすることは、民法五三六条二項、労働基準法二六条に照らし、許されない。

2  抗弁2(一)の事実のうち、原告務台が運行窓口で騒ぎ立て、運行窓口の業務を妨害したこと、原告務台が李達完に対し、「お前は人間ではない」、「人間の心を持っていない」などと暴言を吐いたことは否認する。原告務台は、「人間の心を持たない人とは話はできない」という趣旨の言葉を述べた。原告務台は、李達完が、原告仲村において、組合が福利厚生活動として行っている高速券の購入販売の経緯を理由書として被告に提出しなければ、原告仲村の乗務を拒否する意思であることを知り、このような李達完の不当労働行為により、原告仲村が乗務できなければ、沖縄にいる原告仲村の母が大病で入院し、リハビリ中で月約一〇万円もの費用がかかるのに大変なことになると思い、李達完に対する抗議の中で右のように発言した。決して李達完を侮辱したり、その名誉を傷つけるためではなかった。

(四)の事実のうち、原告務台が始末書を提出しなかったこと、李達完が平成七年九月一八日から原告務台の乗務を拒否したことは認め、原告務台が反抗的態度を崩さなかったことは否認する。

始末書を提出しないことを理由に、乗務を拒否することは許されない。また、被告の就業規則九七条を適用して就業停止を命ずるには、懲戒処分の未確定の段階において当該従業員を業務から排除することを必要とするに足りる合理的、客観的な理由があることを要するが、本件ではそのような理由が存しないから、同条を適用する前提を欠く。さらに、被告の就業規則九七条に基づいて就業を停止しても、その間の賃金を全額不支給とすることは、民法五三六条二項、労働基準法二六条に照らし、許されない。

3  抗弁3(一)の事実のうち、原告仲村が被告が命じた文書の提出を拒否したことは認めるが、右文書の提出をいったん約束したことは否認する。その余の事実は否認し、主張は争う。

(二)の事実のうち、李達完が、平成七年九月一二日、原告仲村に対し、組合の高速券購入取扱いの経緯等の説明を求めたこと、原告仲村が同月一六日李達完に対して右文書を提出せず、その作成、提出を拒否したことは認め、同月一五日に原告仲村がこれを承諾したこと、原告仲村が、「そんなものは出せない」とことさら無視する態度を取ったことは否認する。

就業規則八条四号に関する主張は前記のとおりである。

4  抗弁4(一)の事実のうち、原告山脇が、平成七年二月二〇日労働組合員内宮ら二名とともに、内宮の下車勤問題で李達完に説明を求めたこと、李達完が「(内宮の件を組合で取り上げるというのであれば)文書で申し入れなさい」と述べたことは認め、その余の事実は否認する。

(二)の事実のうち、李達完が原告山脇の乗務を拒絶したことは認め、その余の事実は否認する。

(三)の事実は否認する。

(四)の事実のうち、李達完が原告山脇に対し、平成七年三月一四日、内勤に就くよう働きかけたこと、原告山脇が内勤に関して質問したこと、李達完が、内勤の勤務時間を説明したことは認め、原告山脇がその日の午前中内勤の仕事に就いたことは否認する。

五  再抗弁

被告の就業規則九七条は、懲戒処分を行うのに必要な厳格な手続を潜脱するものであり、無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は争う。

第四争点に対する判断

一  原告上岡に対する乗務拒否の適法性について(争点1)

1  (証拠略)及び原告上岡敏男本人尋問の結果(いずれも後記採用しない部分を除く)によれば、原告上岡は平成七年八月二八日の常会に参加しなかったが、このことに関して、同月二九日に李達完が原告上岡をとがめ、始末書の提出を求めたこと、原告上岡は、これを拒否したが、李達完との言葉のやり取りの中で、李達完に反発して、「会社は自分を無視しているから、自分も無視する」と述べたことがあったこと、李達完は、被告代表者にこの件を報告し、被告代表者から、原告上岡を上司の指示に従わせるように指示を受け、原告上岡に対し始末書の提出を求め、これが提出されない限り原告上岡の乗務を拒否し続けることにしたこと、原告上岡からはその後も始末書が提出されなかったため、李達完は、原告上岡の乗務を拒否し続けていたこと、被告は懲戒処分として右の措置を執ったものではなかったこと、以上のとおり認めることができる。

(書証略)の各記載並びに(人証略)及び原告上岡敏男本人の各供述中右認定に反する部分は採用することができない。

2  被告は、原告上岡の乗務を拒否した措置の法的根拠として就業規則八条四号を主張するが、同号は、当該労働者が就業することによって事業場の秩序や他の労働者の就業に悪影響を及ぼすような場合に、応急措置として事業場への入場拒否、就業禁止を行うことができることを定めたものであると解するのが相当である。

しかして、前記認定によれば、原告上岡の行為が就業規則八条四号に該当するものということはできず、同号が被告の執った前記措置の法的根拠となるということはできない。なお、前記のとおり、原告上岡が李達完の求めに応じず、始末書を提出せず、不適切な発言をしてしまったことは認められるものの、これをもって、原告上岡が業務上の指示、命令に従わないとき(就業規則一〇二条四号)、又は業務上の指示、命令に不当に反抗して事業場の秩序を乱したとき(就業規則一〇三条三二号)に当たるものと断ずることはできないし、被告が懲戒処分として前記措置を執ったものではなかったことも、既に述べたとおりである。

3  そうすると、被告が平成七年八月三〇日から同年一〇月一九日までの間原告上岡の乗務を拒否し続けたことは、法的根拠を欠くものであるから、原告上岡は被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。

二  原告務台に対する乗務拒否の適法性について(争点2)

1  (書証略)、(証拠略)及び原告務台正美本人尋問の結果(右各供述中、いずれも後記採用しない部分を除く)によれば、平成七年九月一六日午前七時三〇分過ぎころ、李達完が原告仲村との間で、高速券の購入取扱いの経緯等を説明する文書の提出の件について話をしていたところ、原告務台らがその話に割り込み、李達完との間で約一五分間にわたってやり取りが続いたこと、李達完が就業時間なので仕事に就くよう注意したが、原告務台は、李達完が組合に対する支配介入を行っていると考え、李達完の仕事に就くようにとの指示にすぐには従わず、李達完に対し、「人間の心を持たない人とは話はできない」という趣旨の言葉を述べたこと、以上の事実が認められ、(証拠略)及び原告務台正美本人の各供述中右認定に反する部分は採用することができない。

2  被告は、原告務台の乗務を拒否した措置の法的根拠として就業規則九七条を主張するが、同条は懲戒処分前の就業制限として就業を停止した場合はその間賃金を支給しないと規定しているから、同条を適用して賃金債権不発生の効力を有するのは、懲戒事由に該当する非違行為が存在し、かつ、当該非違行為が出勤停止以上の懲戒処分を相当とする程度のものであることを要するほか、当該非違行為が事故の発生、不正行為等、業務の遂行の阻害事由となる性質のものであり、懲戒処分前の就業制限として就業を停止しなければ、懲戒処分の決定までの間に新たな事実の発生、不正行為の再発等により業務の遂行が阻害されるおそれがある等の特段の事情の存する場合に限られるものと解するのが相当である。

前記認定によれば、李達完の言動の不当労働行為該当性を別にすれば、原告務台が、既に就業時間が始まっており、李達完から仕事に就くよう注意を受けたにもかかわらず、約一五分間その場にとどまり、さらには、李達完に対し、右のような不穏当な発言をしたことは相当ではないといわざるを得ないが、これらの事実だけでは右特段の事情が存するものということはできない。

3  そうすると、被告が平成七年九月一八日から同年一〇月二〇日までの間原告務台の乗務を拒否し続けたことについて、就業規則九七条を根拠に右の間の賃金債権が不発生であるということはできないから、原告務台は被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。

三  原告仲村に対する乗務拒否の適法性について(争点3)

被告は、原告仲村の乗務を拒否した措置の法的根拠として就業規則八条四号を主張するが、同号は、前記のとおり、当該労働者が就業することによって事業場の秩序や他の労働者の就業に悪影響を及ぼすような場合に、応急措置として事業場への入場拒否、就業禁止を行うことができることを定めたものであると解するのが相当である。

しかして、被告の主張する事実によっても、原告仲村の行為が就業規則八条四号に該当するものということはできず、同号が被告の執った前記措置の法的根拠となるということはできない。

原告仲村は、平成七年九月一六日から同年一〇月一八日までの間被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。

四  原告山脇に対する乗務拒否の適法性について(争点4)

1  被告が平成七年二月一九日に、原告山脇の乗務が可能であることの診断書が提出されていないことを理由に、乗務をさせなかった措置の適法性について

(証拠略)及び原告山脇久和本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)によれば、原告山脇は、平成七年一月二二日から同年二月一八日まで痔の手術のために休業し、同年二月一九日に出勤したこと、高橋運行課長が、安全の確認のため、原告山脇に対し乗務できることを証する診断書を提出するよう求め、その日は乗務させなかったこと、原告山脇は、同月二〇日にも出社したが、その時点では診断書をまだ入手していなかったので、被告は乗務させなかったこと、原告山脇は、同日診断書を発行してもらって、同月二一日に被告に提出したこと、以上の事実が認められ、(書証略)の記載及び原告山脇久和本人の供述中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定によれば、被告が平成七年二月一九日に原告山脇を乗務させなかったことは適法な措置であり、原告山脇が被告の責めに帰すべき事田によってタクシー乗務の履行をすることができなかったということはできない。

2  被告が平成七年二月二一日から同年三月一二日まで原告山脇の乗務を拒否した措置の適法性について

(一) (証拠略)及び原告山脇久和本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)によれば、原告山脇は、平成七年二月二〇日、被告の事務所二階の運行窓口に内宮ら二名とともに行き、被告が内宮を下車勤にした件について説明を求めたが、李達完がこれに取り合わず、組合で取り上げるというのであれば、文書で申し入れるよう答えたため、納得できず、大声でやり取りを続けたこと、李達完も大声を出したこと、以上の事実が認められ、(証拠略)及び原告山脇久和本人の各供述中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(二) (証拠略)によれば、被告が、原告山脇に対し、(一)の言動を理由に就業規則九四条を適用して平成七年二月二一日から同年三月一〇日まで原告山脇の乗務を停止し、さらに同年三月一一日、それまでの乗務停止の期間も充当し、同年二月二一日から同年三月一二日までの間、二〇日間を乗務停止とする旨を決定し、文書で通告したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、前記のとおり、被告の就業規則九四条四号は、乗務停止につき、「一定期間乗務を停止し、再教育を受けさせ、または他の業務に従事させる。」旨を規定し、同条五号は、出勤停止につき、「二〇労働日以内の期間を定めて出勤停止を命ずる。出勤停止期間中の賃金、賞与は一切支給しない。」と規定しているのであって、就業規則九四条四号に基づく乗務停止は、出勤停止のように出勤停止期間中の賃金、賞与を支給しないことを内容とする懲戒処分ではないことが明らかである。

もっとも、被告は、原告山脇に対して同年三月一四日に至るまでタクシー乗務以外の業務の話を全くしていないし、李達完が同年三月一四日に原告山脇に対して内勤を持ちかけたのも、就業規則九四条四号に基づく他の業務の指示として行ったものではない。

このような場合には、被告が就業規則九四条四号に基づく他の業務の指示をしなかった以上、原告山脇は、タクシー乗務を行った場合と同額の賃金請求権を有するものと解するのが相当である。

(三) よって、原告山脇は、平成七年二月二一日から同年三月一二日までの間の賃金請求権を有するものというべきである。

3  被告が平成七年三月一四日から同年三月二七日まで原告山脇の乗務を拒否した措置の適法性について

(一) (証拠略)及び原告山脇久和本人尋問の結果によれば、原告山脇が平成七年三月一四日に李達完から内勤の話を持ち掛けられた際、労働条件を明確にしてもらえるなら、内勤でもやむを得ないと考え、李達完に対し、労働条件を明確に記載した文書の交付を求めたが、そのような文書をもらえなかったことが認められ、(証拠略)中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(二) しかして、右認定によれば、被告と原告山脇との間でタクシー乗務員から内勤に職種を変換する合意が成立したものということはできず、被告が平成七年三月一四日から同年三月二七日まで原告山脇の乗務を拒否した措置は適法とはいえない。

(三) よって、原告山脇は、平成七年三月一四日から同年三月二七日までの間被告の責めに帰すべき事由によってタクシー乗務の履行をすることができなかったものというべきであり、右の間の賃金請求権を有するものというべきである。

五  結論

よって、原告上岡、原告務台及び原告仲村の各請求は、すべて理由があるから認容し、原告山脇の請求は、平成七年二月一九日の分については理由がなく失当として棄却するが、その余の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条ただし書を、仮執行の宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙世三郎)

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